04:恋は盲目






セントビナーに取り残された市民を無事に避難させる為、
一行はタルタロスに乗って海の向こう、譜業職人達の連なるシェリダンを目指していた。


――タルタロス船室


室内にはルークと陛下・ガイが居た。
ジェイドはタルタロスの操縦の為、ブリッジに居る。
イオン様は女性陣と共に別の船室で休んでいる。



こんなメンツで、ルークが会話を切り出した。

「そいや、ガイは陛下に謁見してなかったよな」

そう言われて、思い出したようにガイが陛下に向き直る。
「おぉっと、そうだったな。陛下があんまりこのメンバーの空気に馴染んでるもんで、忘れちまってたよ」
ガイの言葉を受けて、ピオニーが嬉しそうに笑った。
「本当か?いやぁーそら良かった。旅の途中、ずっと緊張されてると困るからな。
お前、やっぱいい奴だなーwガイラルディア」
突如本名で呼ばれてガイは少しびっくりした。

「陛下、どうしてその名を?」

「ああ、ジェイドから話を聞いていてな。お前の名前も、身分も認知済だ」
「あぁ…成程」

ガイは苦笑した。

すると、ルークが再び口を開いた。


「なぁ、陛下はどうやってセントビナーまで一人で来たんだ?」

ルークの素朴な疑問はしかし、核心を突いていた。
宮殿の確実な警備の目をどうやって…
同じ疑問を持って、ガイも尋ねる。
「ああ、そう言えばそうだな。陛下、一体どうやって宮殿を?」

すると、ピオニーは今度は自信満々で答えた。
「そんなの、抜け出して来たに決まってるじゃねーか。
昔っから、こーいうことに関しては、かなり自信が有るもんでな♪
ちょっくら穴堀しただけだ」

身分なんて何のその。
目の前に立つ『皇帝』のあまりに不相応な振る舞いに呆気に取られた。

((……ジェイドも苦労してるんだな…))

ルークもガイも呆然としていた。
ピオニーはそれを見やりながら、はっはっはっと豪快に笑って見せた。


そして、気が付くとまた、ルークが質問を投げかける。

「そいや、陛下はジェイドの幼馴染って…」

その質問が来ると陛下は目が輝いた。
「そうだぞ!アイツは俺の幼馴染兼臣下兼恋人だからなッw」

「「………今、何て?」」

「ん?だから、アイツは俺の幼馴染兼臣下兼恋b… 「「ぁああーー!!」」

「何だ?どうした?」
「ぃ…いや、その、俺その、アレ、イオンに話が有るんだった。ちょっくら行って来るッ」

ルークがダッシュで船室を脱出する。

「急いでいたなら言えば言いのにな」
(いやいや、違うって!!)
「陛下、すみませんが、俺もちょっとアニスに頼まれてたことを思い出したんで、失礼します」
そう言ってそそくさとガイも部屋を出る。


「……まさか此処まで反応されるとはな」

部屋に一人取り残されているピオニーが呟いた。
部屋の外で合流したルークとガイは二人揃ってさっきのピオニーの発言を思い返していた。

「…あれってさ、陛下がジェイドとデキてるって事なのか…?なぁガイ…」
「聞くなッ!俺だって知りたくは無い!」

微妙な空気を残していたので、試しにブリッジに行こうと思ったが、
その前に先程居た船室の扉がもう一度開いたので、
中から出てくる人を予想し、近くの部屋に隠れた。


「あいつ等もどっか行っちまったし、ジェイドんトコでも行くかw」

嬉々としてブリッジに向かう陛下を見て、ルークとガイは互いを見合わせた。

「…なぁ」
「考えるな、ルーク」

そんな心境で二人は女性陣の居る部屋に向かおうとした。
…だが、結局性分なのか、気になってしまったようで、
二人して陛下の後を追ってブリッジに向かったのだった。






―――――タルタロス・ブリッジ



「よぉージェイドww」

ひょっこり現れたピオニーを視界に捉えると、ジェイドは早くも溜め息が出た。

「はぁ…陛下、何をしにいらしたのですか。ルーク達と船室に引篭っていた筈では?」
ジェイドはタルタロスの進路の確認をしながら、横目でピオニーに話しかけた。

「おぅ、お前の話をしようとしたら急に用事を思い出したみたいでな。
部屋に一人じゃ面白くないからな、お前のトコに来てやったってワケだw」

ジェイドはそれを聞いて、陛下に向き直った。

「陛下…まさかと思いますが、何を仰ったので?」

「ん?だから、ルークがな、俺とお前が幼馴染なんだよなって聞くから、
お前と俺の関係を教えってやったまでだ」


ピオニーがジェイドに成り行きを語っていたところ、
ルークとガイがブリッジの扉の外で聞き耳を立てていた。


「……また要らないことを言ったのですね」
なんとなく内容の予測が出来、ジェイドはげんなりした。
「要らないとはなんだ!そもそも、他の奴がお前に手を出す前にだな…!」
何故か熱弁するピオニー。

「何処の誰がこんな軍人のオッサンに手を出すというのです」
「お前、昔っから自分の事には疎かったもんな。気を付けねーと、危ないぞ」
「陛下、私の実力をご存知では?」
「だーぁもう。お前は可愛げが無い!」
「オッサンが可愛くてどうするんです。その方が不気味です」


外で聞いているルークとガイが、顔を見合わせた。
(確かに…ジェイドってオッサンにしちゃ美人…だよな?)
(認めたくないけどな…)
ルークの問い掛けを、ガイは否定出来なかった。


ジェイドの言う尤もな意見を退けて、
ピオニーは操縦席に座っているジェイドを後ろから抱き締めた。


扉の小さい窓から中の様子を窺っていた二人は驚いて思わず窓から顔を降ろした。
(……ぉぉおオイッ!あぁ…アレ…)
(やっぱそーいう関係なのか!!?)
うっかり目撃してしまった二人は、ちょっとしたパニックに陥っていたが、
結局気になって再び窓に顔を寄せるのだった。


ジェイドは座っているワケだから、陛下は若干背を曲げた姿勢になっている。

「お前の執務室に居る時もそうだが、お前って座ってると余計に抱き締めたくなるな」

耳元でそんな事を言われているジェイドだが、
呆れ笑いが漏れていた。
「身長は私の方が少し高いですからね」
「無駄にひょろ長ぇからな」

「そんなひょろい奴を『懐刀』として置いているのはどこの誰でしょうねぇ?」
「ふん、実力は認めている。だが、もっとガタイが良くても良いんじゃねーか?」

「これでも、旅を始めてからは、ちゃんと食べているんですよ。皆さんが心配なさいますから」
「ばーか。お前、どーせちゃんと食ってても、 夜は寝ないで見張りも兼ねて書類整理でもしてたんだろ。
そんなんじゃやつれるに決まってるだろーが」

「……流石…というべきですか…」
(昔から貴方に隠し事は出来ませんでしたね…)


それを聞いていたルークとガイが再びこそこそ話し出す。
(…なぁ、ガイ、知ってたか?)
(あ?ジェイドが寝てないって事か?)
(うん…)
(ああ、まあな。うっすらだけど夜中に目が覚めたとき、アイツがまだ机に向かってるのを見た覚えはあるな。)
(まぢかよ。俺…そんなこと全然…気付かなかった。)
(そりゃ、お前は爆睡してたからな。)
(な…なんだよッ)

(まぁ、お前が疲れてるのは皆知ってる。休めるときに休めってジェイドも言ってただろ?)
(でも…ジェイドも疲れてるんじゃないのか?なのに…)
(まぁな。俺も二人で同室になった時は流石に寝ろって言ったよ)
(そっか…)

(…後で少し後悔したがな…)
そう呟いたガイの声は、その時のルークの耳には届かなかった。


「陛下、そろそろお休みになられては?もう夜です。シェリダンには明日の昼に着くと思われますから」
ジェイドは自分に抱き付いたままの陛下を退かせるように言った。
「俺の部屋はルーク達と同じか?」
「船室は沢山あります。広めのお部屋を適当のご使用下さい。」
「おいおい、仮にも皇帝なんだぞ俺は。適当ってなぁ…」
「何か文句でもお有りですか?」

「わーかった。しかし、お前まさかこのまま今夜は此処で一晩中進路の見張りをしとく気か?」
「陛下が乗られているのですから、見張りも兼ねてそれ位はするつもりですが」
「ダメだ。お前は、今日は、俺と同室で寝るんだ」
「お断りします。」
「何だよ」
「他の船に襲われた場合、私が真っ先に安全を確保しなければならないのは、間違いなく貴方なのです。
そんな状況下で寝る訳には行きませんよ」

「はっはっはっ、何だそりゃ。それじゃあ俺が旅に参加している間、ずーっとお前は休みなしになるだろーが」
「ええ、そうなりますね」
「おいおい、俺はそんな事お前には頼んでない。お前は気にし過ぎだ、ジェイド」
ピオニーにそう言われて、ジェイドは考えるように少し俯いた。

「…そうかもしれませんね」

俯くと余計に長い睫毛が頬に影を落とす。
ピオニーは単純にそれが綺麗に見えた。

そして、思わず頬に手を掛ける。

顔を上に向かせれば、眼鏡の奥に光を湛えた緋色の瞳に、自分の影が映る。
その瞳が自分を捉えて離さないことを確認すると、
そのまま、眼鏡を取り払う。


「陛k 「眼鏡は邪魔だ」

片手にジェイドの眼鏡を持ったまま、ピオニーはジェイドの瞼に口付けた。

「…ッ」

「じっとしてろ」

そう言いながら、ピオニーは何度か瞼に優しいキスを降らせた後、
一旦顔を離し、ジェイドの顔を覗き込んだ。

「どうした?顔が赤いぞ」

にやりと口端を上げ、悪戯の様に笑うピオニー。

「…貴方という人は―――ッ」
言い掛けるジェイドの口を己のそれで塞ぐ。

互いに離れていた時間を埋めるように、ピオニーは何度も繰り返し角度を変えては啄む。
あんまり長く口を塞がれて、呼吸困難になってきたジェイドが
ピオニーの胸を押すが、酸欠状態で力が入らない。

「…んッ」

少し声を漏らして訴えると、漸く口を開放された。

「…ッハァ…、く…るしいじゃないですか…ッ。手加減というものを…」

瞳に潤い湛え、息が上がりながら訴えるジェイド。
その様子を斜め上から嬉々として見つめているピオニー。

「あぁ?何か言ったか?」



―――ガタンッ!


!!


急に扉が鳴った。
ルークとガイがあまりに見入り過ぎて少しずつ扉を押しているのに漸く気付き、
慌てて身を引いた為に起こった音だった。

(やっべー!!)
(しまった!気付かれた!)



「陛下…どうやらネズミが居たようですね」
「らしいな」

ジェイドはげんなりしながら扉を見た。
一方の陛下はといえば、ジェイドの頬から惜しむようにゆっくり手を離し、
にやりと自信を湛えた笑みで扉の方へ向かっていくのだった。






    

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中途半端!!で済みませんlll;
シェリダンに向かう途中のタルタロス船中捏造話です。
キス…って書くのすっごい恥ずかしいッ!ですね(T□T;
慣れない物に挑戦しようという試みが間違いでしたね…orz

此処のジェイドは極めて冷静です。
そして此処のピオニーはアホです(ぇ(笑
ルークは天然です。そしてガイは確信犯です(ぇ)や、二人纏めて物好きです(笑

お読み下さって、ありがとうございました!!キスは出直しまッす!(逃(ぇえ!

07/7/31(Tue)