――――し…しまったァアア!!(げっそり
扉の向こうで硬直してしまった二人は
同時にそんな事を思った。
05:恋は盲目 2
扉の向こうで物音がし、二人の時間を邪魔されて気分を非常に害したピオニーが
不気味な笑顔を浮かべながら、
物音の先に待っているであろう人物の元へ、
ゆっくりと歩み寄っていった。
「おい、お前ら。何時からそこに居た」
扉越しにピオニーがルークとガイに言うと、
戸が開いて、外から二人が入ってきた。
「いや、…その…最初から…」
ガイは焦りを顕にしながら言う。
隣に居るルークはと言えば、縮こまってガイの後ろに隠れている。
「ほーぅ…それで」
ピオニーは二人が後から来たのに気付けなかった自分にも少し苛立ちを覚えたが、
実際この状況が出来たことで、彼らへの見せしめが出来たと、
内心少し喜んでも居たのだった。
だが、それは表には出さないで、彼らの反応を楽しんでいた。
「…それでって…いや、その…別に」
ルークがあやふやに返すと、ピオニーが悪戯ににやりと笑って言った。
「別にって事ぁ無いだろう。キスしたのも見てたんだろ?ん?」
「陛下」
ピオニーのストレートな言葉に流石のジェイドも傍聴・傍観という訳にも行かなくなった。
とりあえず歯止めの言葉を口にするが、
まぁ…当然の如く聞いていない。
ジェイドは再び溜め息を漏らした。
「見たくて見たわけじゃ…ッ」
「でも見てたんだろ?しかも最初から」
「「うっっ…ッ」」
「まあ良い。お前らがジェイドの事をどう見てるか知らんが、これだけははっきり言って置く。
奴は俺のだ。好きになって貰うのは勝手だが、手は出すなよ」
「「「………」」」
ピオニーの一言に、ガイとルークは目が点。
ジェイドは疲れて物も言えない程だった。
ガイがゆっくりとささやかな反論をしてみた。
「お言葉ですが陛下、女性は好きですが…男でしかもオッサンでしかも軍人ですよ?」
「ああ、そうだな」
ガイの反論に対して全くと言って良い程動じていないピオニー。
「…そうです。だからどう手を出せと仰るのですか」
もう一度ささやかに反抗してみる。
「何だ?そうやってこっそりジェイドを懐かせる方法でも聞き出そうってのか?」
「な…なつッ!?」
「陛下。悪戯が過ぎますよ。それに、私は別に貴方に懐いている犬でも猫でもありません」
流石にジェイドも口を出すが、
「何言ってる。お前は犬でも猫でもないのは知っている。お前は兎だからな」
「「……………ぇ」」
「…はぁ…lll;」
ピオニーの爆弾発言に、最早そこに居る誰もが彼の暴走を止める事が出来なくなった。
「そもそも、ガイにルーク。お前ら、一度でもジェイドと二人で同室になった事が有るなら、
俺がどうしてこんな事を言うのか、分かるだろう?」
「「え…?」」
ルークは真の疑問符を浮かべている。
ジェイドと二人で同室になっても、ジェイドが寝る前に彼自身が先に爆睡してしまうからだ。
だが、ガイは違う。
一応ピオニーが来る前は、一番歳が近いのがガイだったからか、
或いは、尤も実力が近い人物だと思ったのか、
同室になった時にガイが寝るように促すと、少し抵抗が有った様だが、
最終的には大人しく寝てくれたのだ。
つまり、PT内でジェイドの寝顔を拝んだことが有るのは
この時点ではガイだけだった。
ピオニーは、ジェイドが信頼している相手に対して少し気を許すのを知っているので、
恐らくどちらかは拝んだことが有ると思って言ったのだった。
そして案の定、ガイの反応が的中した。
「そうか。ルークはまだ見てないんだな。よーし。ありゃお前にはまだ目の毒だからなw」
「何がですか陛下?」
不思議そうにジェイドが言う。
「…え?何?」
ルークは訳が分からずただやり取りを傍観しつつ疑問符を沈めていくしかなかった。
「それで…ガイ。お前は見たんだな?正直言うと、他の誰にも見せたくは無かったんだがな」
「…や、その、それは…ジェイドも疲れてると思っていましたし、皆知ったら心配するでしょう?それに…
ジェイドに倒れられたら色々と困る事が沢山有りますから」
「はぁ…どうせならジェイドは一人部屋にすれば良かったんだ。一人なら遠慮なく寝れるだろ?」
「出来るだけ纏まって動かないと、面倒が増えるのは御免ですから」
「だからってお前が寝ない必要は無い」
「だから。寝てるじゃないですか。ガイと同室の時は」
「それが気に食わねぇ」
それだけ言うと、ピオニーはガイに向かって言った。
「良いか。俺が此処に居る間は、ジェイドはずっと俺と同室だからな。
そうすりゃ、お前はジェイドの寝顔を拝めなくなる。」
「え?何、ジェイドの寝顔の話してたのか?」
今更になって漸く会話の中心が見えてきたルークが急遽参加する。
「ジェイドの寝顔…って、何か有るのか?」
ルークの純粋な言葉を受けて、ガイが半分げんなりしつつ答えた。
「…や、何か有る訳じゃないが…その…覗き込むのはマズイ」
「それ見ろ」
ガイの正直な感想を得て、ピオニーは得意満面になった。
「嫌ですねぇ。人の寝顔を覗き込むなど、悪趣味ですよ?ガイ」
「ちがッ…ぃや、違わないか…」
否定の言葉を飲み込む。
「旦那が寝てる所を見るなんて無かっただろ?だから…つい」
「人の寝顔なんて見て何が楽しいんです?皆大して変わらないでしょう」
というジェイドの言葉を真っ先に否定したのは、勿論ピオニーだった。
「だからお前は、昔から自分に疎いんだよ。まあ、寝顔は知らなくて当然だがな」
「旦那の寝顔ははっきり言って怖いぜ…色んな意味で」
「怖いのですか?なら適当では?魔物も盗賊も逃げて丁度良いでしょう」
「「…………ぁあ、まあな…。」」
いつも冷静で、冗談を言う時でさえ的を得た発言をするジェイドが、
涼しい顔ですっ呆けた事を言うので、
ピオニーもガイも返答に困ってしまった。
(いや、だから…綺麗過ぎるんだってッ!!(汗))
というガイの心の叫びは、唯一ピオニーにだけ聞こえたのであった。
そんな中、ルークは未だに何故寝顔の話題をしているのか分からず、呆けていた。
「さて、皆さんそろそろ就寝しては如何です?陛下も」
「俺はついでか」
「もう夜も少し遅いですし、疲れているでしょう」
「無視か」
「何ですか陛下。何か文句でもお有りですか」
「いや。何も…」
「ああ、そんじゃあ俺達は先に戻るよ」
淡々とした会話が続いた後にルークが切り出して
ブリッジは再び二人だけとなった。
「お前、今日は疲れてるだろ。タルタロスが進路を間違えるなんて心配は無い。
放って置いて、お前も寝ろ」
「分かりましたよ。同室で、でしたね」
ピオニーが寝るように促すと、先程のやり取りも有ってか、ジェイドはすぐに了解した。
「勿論だ♪」
同室に同意してくれた事に、ピオニーは子供のように喜んだ。
まぁ、元々彼自身がまるで大きな子供なのだが…。
そうしてピオニーに適当な船室に連れて行かれた。
――――船室
「…陛下。何故ツインではなく…ダブルなんです?…しかもキング」
「当たり前だ。違うベッドなんて面白くないからな。
もう何ヶ月お前に会って無かったと思ってる」
「…………疲れてますんで、もう何でも良いですよ。兎に角、眠いです」
「けっ、やっぱりな。そうやって正直に言えば良いんだよ。
お前はいつも自分の事を後に回すんだ。そんなに奴らが信頼できないのか」
「そうでは有りませんよ。ただ、彼らに頼るのは筋違いですから」
「何故だ」
「私は軍人です。しかし彼らの中には民間人も居ます。
今でこそ戦力と数えられる程ですが、私の仕事柄、彼らに頼るのはあまり良い事ではないでしょう。
それに彼らはまだ子供です。
しかし彼らがそれぞれ背負っている物は重い。
私は彼らの足を引っ張るのは御免ですし、引っ張られるのも御免です」
「馬鹿野郎。あいつらが背負ってるモンは、お前も一緒に背負ってるだろ。
なのに、お前の背負ってるモンを、あいつらに背負わせねーってのは、
明らかに不公平だ。
それに…あいつ等は皆お前の事を信頼してるし、知りたがってる。
そろそろ気を許しても良いんじゃないか?」
「…………そうですね。そうかもしれません」
「そうだ。疲れているならそう言え。今此処には俺が居る。
お前が疲れたからって、誰もお前が悪いとは思わん。
寧ろお前が疲れているなら、奴らはもっと疲れてる筈だしな。あいつ等、痩せ我慢が好きそうだしなw」
茶化しながらピオニーは言うが、ジェイドは内心本当にホッとしていた。
すると、ジェイドはそのまま軍服の上着を脱いで、ベッドの上に倒れこんだ。
そして…そのまま安らかな寝息が聞こえ始めた。
そんなジェイドを見下ろして、
「…そんなに疲れてた癖に、徹夜して進路を守ろうとしてたのか?
ったく、本当に仕様が無い奴だな」
苦笑を漏らしながら呟いた。
(これだから、お前は世話が焼ける)
そして、乱雑に横たわるジェイドの手袋とブーツを脱がせ、
呼吸が楽になるように中着の襟を少し開ける。
そしてきちんと寝かせて、ピオニーはその隣に腰を下ろした。
(…こいつの寝顔はやっぱ誰にも見せなくないな)
隣で規則正しい寝息を立てて眠っている者を見下ろし、内心で呟いた。
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…あ…甘ッ!!!ってかゲロ甘!!!うわーー微糖路線で行こうと思ってたらもう甘々だー!
ちょ、もうキャラ壊れまくりですorz
タルタロスにそもそもキングサイズのダブルベッドなんて有る筈が有りません。(だって軍艦だもの。
滅茶苦茶捏造です。何でも御座れ、タルタロス。(ぇ
ジェイドの寝顔って想像できないけど、多分可愛い?或いは綺麗?と思って書きましたが…
100%脳内妄想☆ですから悪しからず。(笑
ガイは色々旦那の事知ってます。
ルークは純粋過ぎてあまり意味を掴めません。(笑
ジェイドは自分のことに疎いです。公式だと思います。はい。(ゲラ
そして確信犯のピオニー。これも公式かとww
お読み下さって有難う御座いました!
07/8/11(Sat)